退職代行を利用して従業員が退職の意思を会社側に伝えるというケースが増えています。
本人が直接会社に退職を依頼するケースとは異なるので会社側も対応に戸惑うことがあります。
この記事では、退職代行とは何か、退職代行から連絡があった場合の会社側の適切な対応などを紹介します。
退職代行を利用される事は、会社と従業員の信頼関係がない事を意味します。
退職代行を使われた職場の環境改善も検討しましょう。
退職代行サービスとは?
退職代行とは従業員が退職を希望する場合、その従業員に代わり退職の連絡をおこなってくれるサービスです。
近年、退職代行を提供する業者が増えました。
退職代行が増えた理由は、会社が退職希望者に引き止めや嫌がらせを行うケースがあるためです。
さらに、身体的・精神的な病気ゆえに自分では退職願を伝えられない、職場が肌に合わず同僚や上司とも顔を合わせたくないなどの理由で退職代行を利用する人も増えています。
しかし、会社が退職代行の対応には注意が必要です。
2種類の退職代行の違い
退職代行から連絡を受けたらまず「弁護士資格を保有している業者なのか」を確認します。
退職代行は、弁護士が行うものと、弁護士資格のない業者が行う2種類に分かれます。
退職代行が一般化する以前から、弁護士が退職希望者の代理人として会社と交渉する事はありました。
「退職したいが未払いの残業代があるのでその請求をしてほしい」
「過重労働を強いるブラック企業に勤めているのでなんとかしてほしい」
上記の退職は「退職代行」ではなく「交渉」です。
次の部分では「退職代行」の範囲について詳しく説明します。
退職代行の法的効力の範囲
弁護士と、弁護士資格のない退職代行業者では提供できるサービスの範囲が違います。
弁護士資格のない退職代行サービスは代理人として交渉を行えません。
代理人として交渉できない理由
弁護士以外が退職希望者の代理人として交渉する事は弁護士法に違反です。
弁護士でないものが仲裁、和解など交渉を含む法律事務を行うことを「非弁行為」といいます。
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。”
弁護士資格のない退職代行サービスは、退職希望者の代理人ではなく「伝言」でしかありません。
退職代行が行える範囲
退職代行で弁護士と弁護士資格のない退職代行業者が行える範囲をまとめました。
弁護士 | 弁護士資格のない退職代行 | |
退職の意向を会社に連絡 | 可能 | 可能(伝言) |
退職に関係する法律相談 | 可能 | 不可 |
退職の日程や有給休暇の取得などについての調整 | 可能 | 不可 |
未払いの残業代などについての交渉 | 可能 | 不可 |
弁護士資格のない退職代行サービスは、退職希望者に代わり退職の意向を会社に連絡する業務のみ可能です。
会社は退職代行の「弁護士資格を保有している業者なのか」を見極めて対応を検討します。
弁護士が扱う退職関連の案件
参考までに弁護士が扱う退職関連の案件には以下のようなものがあります。
- 有給休暇の取得の交渉
- 退職日の調整
- 業務引き継ぎについての調整
- 未払いの残業代や退職金の支払いについての交渉
- うつ病などが原因で退職する場合の労災認定
- セクハラ・パワハラへの慰謝料請求
- 誠実な業務引き継ぎがなかったとして会社から損害賠償請求された場合の対応
退職代行に対する会社側の対応
退職希望から退職代行サービスを経由して連絡がきた場合は下記の通りに対応します。
弁護士から連絡がきた場合と無資格の退職代行業者から連絡がきた場合のそれぞれ対応が異なります。
1:弁護士から連絡がきた場合
弁護士から連絡がきた場合は、基本交渉に応じます。
弁護士が退職希望者の代理人として連絡してきた場合の対応
- 委任状の確認
- 雇用契約を確認し適切な退職日を決定する
- 書面による回答を準備する
- 交渉には慎重に対応する
- 引き継ぎや備品の返却などを依頼する
委任状の確認
まずは、退職の意思が本人によるものであることを確認します。
退職代行サービスに弁護士に委任状もしくは退職希望者と弁護士が交わした契約書などの提示を要求します。
雇用契約を確認し適切な退職日を決定する
退職希望者との雇用契約を確認しましょう。
民法第627条では雇用契約に期間の定めがない場合、つまり正社員として雇われている場合は、2週間前に退職の意思表示が必要としています。
契約社員など雇用契約に期間の定めがある場合、契約期間の満了が退職日となっています。
しかし、民法第628条ではやむを得ない事由による雇用の解除を認めています。
やむを得ない事由とは
たとえばセクハラやパワハラ、賃金の未払い、本人の病気や家族の介護などで就労が困難になった場合などです。
雇用契約や雇用規則によって退職の意思表示から退職するまでの日数は違います。
しかし、法的には正社員の場合は少なくとも退職の意思表示から2週間後には退職できるということを覚えておきましょう。
書面による回答を準備する
退職代行を経由して退職の意思表示が書面で送られてきた場合は、会社側も書面の回答を準備します。
退職代行を通じて退職希望者に対応をしたという証拠を残します。
交渉に対応する
退職する日までを有給休暇として欲しいなどの要望が弁護士を通じて伝えられる場合があります。
無資格の代行業者と違い弁護士には第三者の代理人として交渉できる権利があるので、こうした交渉自体を断ることはできません。
退職前の引き継ぎについても交渉されることがあります。
退職希望者が出社を望んでいないのであれば、会社側はメモや文書による引き継ぎ程度しか期待できません。
弁護士から退職代行の連絡がきた場合は、会社側も顧問弁護士などに対応や交渉の仕方を相談しましょう。
引き継ぎや備品の返却などを依頼する
弁護士が代理人となり正式に退職日が決まったなら、仕事の引き継ぎや会社が貸し出している備品の返却をしてもらうようにお願いできます。
健康保険証、社員証、カードキー、自分の名刺や取引先の名刺なども忘れずに返却してもらうようにしましょう。
離職票や源泉徴収票など会社が退職者に渡すべき書類についても、退職者がそれらを受け取れるようにします。
2:無資格の退職代行から連絡がきた場合
弁護士資格のない代行業者から連絡がきた場合は以下の方法で対処できます。
無資格の退職代行から連絡がきた場合の対応
- 本人の意思の確認
- 雇用契約を確認し適切な退職日を決定する
- 交渉には対応する必要がない
- 引き継ぎや備品の返却などを依頼する
本人の意思の確認
退職の意向が本人によるものであることを必ず確認しましょう。
退職代行からの電話連絡のみ、委任状がないなどのケースは本人による退職の意思表示を確認できないと伝えます。
会社側が直接退職希望者本人から書面やメールなどの方法で退職届を提出するよう依頼します。
無資格退職代行との交渉には対応不要
弁護士資格のない退職代行とは一切の交渉不要です。
本人の退職の意思、退職希望日、有給休暇などの退職に伴う条件の伝言と考えます。
退職代行が「本人への直接連絡はせずにうちを経由してくれ」と言われても会社が従う法的義務や根拠はありません。
適切な退職日を決定する
退職代行を経由した退職届受理の場合も、雇用契約や法律に基づいた退職日を決めます。
退職届を受理したなら、受理した日付とともに退職届を受理した旨を記載した文書を内容証明郵便などで退職希望者に送付することができます。
無理に引き留めたり、退職日を引き伸ばしすることなく進めましょう。
退職者に返却を依頼する
通常の退職同様に仕事の引き継ぎや備品の返却を依頼します。
保険証や会社関連の書類など「会社に関する全てのモノ」を返却してもらいます。
退職希望者が返却に応じない場合は、弁護士や警察への相談となります。
送り先を確認する
離職票や雇用保険被保険者証など退職時に会社が従業員に返却する書類を準備します。
退職希望者に郵送先、もしくは取りに来てほしい旨を伝えます。
退職代行を使われた理由を考える
無理に引き留めるのは無意味
わざわざ費用を負担しても退職代行に依頼するこということは、本当に会社を辞めたいという気持ちの表れです。
退職希望者を無理に引き留めても気持ちが変化することは期待できません。
無理に引き留めることは、会社のイメージや信用が損なわれます。
退職希望者側に非があり、業務に多大の支障をきたし損害を被った場合は退職者に損害賠償を請求することができます。
しかし、損害を証明する証拠がなく、あいまいな理由だけで損害賠償請求をするなら費用がかかるだけです。
原因を明確にする重要性
退職代行を使ってまで退職したいと従業員が思うような職場環境の改善を検討します。
退職代行を使われた理由を考えましょう。
退職希望者が直接言い出せなかった理由や原因を今後の人材育成や雇用環境の改善に活かすことが重要です。
まとめ
退職代行の仕事、弁護士と弁護士資格のない退職代行業者の業務範囲の違い、退職代行から連絡があった場合の会社側の対応などを紹介しました。
退職代行が介在する事は、会社と従業員の信頼関係がなくなっている事を意味します。
会社側は退職代行への対応方法を理解し、職場改善が必要です。